ドップラーシフト(逆ヘテロダイン)再考2014年03月11日 22時11分

衛星通信をする際に必ず生ずる 「ドップラーシフト周波数」 について、基本的な
ことを中学生にもわかるように再考します。まず衛星通信の世界でよく使われる
AOS・TCA・LOS、トランスポンダー、アップリンク・ダウンリンク、逆ヘテロダイン
という言葉の説明をします。

AOS とは衛星の見え始めの時を意味し、LOS とは衛星が視界から消える時を言い
ます。太陽でいえば、AOS とは日の出、LOS とは日が沈む時を言います。ちなみ
に TCA とは衛星が AOS と LOS のちょうど真ん中に来る時、つまり 太陽でいえ
ば正午です。

一般に、衛星に向け送信された信号は、衛星に積まれたトランスポンダーという
中継器(変換器)で周波数変換されて地上に戻ってきます。アップリンクとは地上
(観測者)から衛星に信号を送信すること、ダウンリンクとは衛星から地上に向け
信号を送信することを言います。文字通り、アップ・ダウンです。

次に 「逆ヘテロダイン」 という言葉について説明します。これが一番難しい言葉
です。衛星通信には、無線機とコンピュータを通してデータをやり取りするデジ
タル通信と、無線機とマイクを通して交信するアナログ通信の二種類があります。
デジタル通信の例として 国際宇宙ステーション(ISS)、アナログ通信の例として
日本の衛星 FO-29 で説明します。

ISS には 145.825MHz でデータをやり取りする機器が積まれていますが、ISS は
地球に対して高速で宇宙を移動しています。ISS にも地上の観測者にも、当然、
ドップラーシフトが発生します。145MHz帯(V帯という) の周波数では、約±3kHz
がシフト幅です。この ± というのがわかりにくいですね。今、AOS時に 観測者
から ISSに送信したとします。ISS にしてみれば観測者が高速で自分(ISS)に近づ
いてきているのですから、ドップラーシフトにより観測者が送信した信号の周波
数よりも高い周波数として聞こえるはずです。そのシフト幅が約+3kHz なのです。

つまり AOS時に、ISS が 145.825MHz の信号として受信するには、観測者はあら
かじめシフト幅 -3kHz の 145.822kHz で送信すればよいことになります。ISSと
しては 145.825MHz の信号として受信し、同じ 145.825MHz でデータを返します。
返された信号は、ISS は観測者に向かって近づいているので、観測者には +3kHz
の 145.828MHz として聞こえます。 LOS時の周波数関係については、これと全く
逆の ±3kHz の状況となります。文章ではわかりにくいので、次に図式化します。


  ISS [周波数衛星固定]

              地上           衛星           地上
      AOS   145.822   →   145.825   →   145.828   (衛星が近づく)
                    +3kHz          +3kHz

      TCA   145.825   →   145.825   →   145.825
                   ±0kHz         ±0kHz

      LOS   145.828   →   145.825   →   145.822   (衛星が遠ざかる)
                    -3kHz          -3kHz


次に 本題の 「逆ヘテロダイン」 について、日本のアナログ衛星 FO-29 で説明を
します。現在、FO-29 は次のような周波数で運用されています。

      Up 145.900-146.000MHz / Down 435.800-900MHz (Inverting)

つまり、Up左端の 145.900MHz でアップリンク信号を衛星が受信した時は、それ
が衛星のトランスポンダーで変換され、Down右端の 435.900MHz でダウンリンク
として流れていきます。また、Up右端の 146.000MHz でアップリンク信号を衛星
が受信した時は、Down左端の 435.800MHzでダウンリンクとして流れていきます。

つまり衛星のトランスポンダーは、周波数帯の中のアップ・ダウンの関係として、

      アップリンク周波数+ダウンリンク周波数=581.800 (FO-29 の場合)

という、「和」 が一定値という関係が常に成り立っています。

このように 「アップリンク周波数+ダウンリンク周波数=一定値」 という方式を
「逆ヘテロダイン」 方式と呼んでいます。このような方式にするには理由があり、
例えば送信周波数固定の場合、AOS時とLOS時で戻ってきた信号の周波数の差異が
より少なく(半分に)なるようになっているのです。 それは、「逆ヘテロダイン」 
ではない、「差」 が一定値という関係の 「ヘテロダイン」 方式で考えると、その
理由がわかります。(詳しい説明は省略)

さて、ISS の時に述べたように、145MHz帯(V帯という) の周波数では、約±3kHz
のドップラーシフトがあります。435MHz帯(U帯という) には、3倍の約±9kHz の
ドップラーシフトがあります。地上から送信した信号は、このドップラーシフト
と 「逆ヘテロダイン」 による衛星の周波数変換により、次のような図式で信号が
流れていきます。


  逆ヘテロダイン方式(FO-29) [送信固定 145.950MHzの場合]

              地上           衛星  [変換]   衛星           地上
      AOS   145.950   →   145.953   →   435.847   →   435.856
                    +3kHz       逆へテロダイン    +9kHz

      TCA   145.950   →   145.950   →   435.850   →   435.850
                   ±0kHz       逆へテロダイン   ±0kHz

      LOS   145.950   →   145.947   →   435.853   →   435.844
                    -3kHz       逆へテロダイン    -9kHz


  逆へテロダイン方式(FO-29) [受信固定 435.850MHzの場合]

              地上           衛星  [変換]   衛星           地上
      AOS   145.956   →   145.959   →   435.841   →   435.850
                    +3kHz       逆へテロダイン    +9kHz

      TCA   145.950   →   145.950   →   435.850   →   435.850
                   ±0kHz       逆へテロダイン   ±0kHz

      LOS   145.944   →   145.941   →   435.859   →   435.850
                    -3kHz       逆へテロダイン    -9kHz

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